【マーク・ザッカーバーグ】Facebookを、会社にした女
23歳のCEOに、経営を教えた ―ザッカーバーグの『プロダクト』を『巨大な事業』に変えた右腕・シェリル・サンドバーグ
「彼女は私に、会社の経営のやり方を教えてくれた」。
そう語ったのは、マーク・ザッカーバーグ。
世界最大のSNSを生んだ天才が、経営を教わる側だった。
教えた相手は、シェリル・サンドバーグ。
23歳のCEOと、38歳のCOO。
ザッカーバーグの『プロダクト』を『巨大な事業』に変えた右腕である。
ザッカーバーグには、プロダクトがあった
ユーザーは増える。だが、会社にはなっていない
Facebookは、2004年に始まった。
人と人をつなぐ。
情報を共有する。
世界をよりオープンでつながった場所にする。
ザッカーバーグが作ろうとしたのは、そんなサービスだった。
ユーザーは、増え続けていた。
だが、ユーザーが増えることと、会社が成立することは別だ。
社員を増やす。
サーバーを増やす。
世界へ展開する。
そのためには、持続するビジネスが必要になる。
ザッカーバーグ自身も後に、2008年当時を振り返ってこう認めている。
優れたプロダクトはあった。
だが、まだ収益性のあるビジネスではなかった、と。
プロダクトはあった。
次に必要だったのは、会社だった。
ロケットに、乗る女
財務省から、シリコンバレーへ
シェリル・サンドバーグのキャリアは、政府から始まっている。
世界銀行。
そして米財務省。
2001年、彼女はシリコンバレーへ移る決断をする。
複数の会社から、好条件のオファーがあった。
MBAで学んだ通り、彼女は条件を表計算シートにまとめて比較した。
その中で、当時まだ儲かるか分からなかったGoogleの職は、条件面で最下位だった。
迷うサンドバーグに、CEOのエリック・シュミットが言ったと本人が語っている。
「ロケットに乗れるなら、席がどこかなんて聞くな。すぐに乗れ」。
会社が急成長しているなら、キャリアは勝手についてくる。
サンドバーグはGoogleに入り、グローバルオンラインセールス&オペレーション担当副社長を務めた。
インターネットサービスを、世界規模の事業として動かす経験。
それが、次の決断につながっていく。
23歳の下で、働く決断
CEOの椅子より、ロケットを選んだ
2007年12月。
シリコンバレーのクリスマスパーティーで、二人は出会ったと伝えられる。
23歳のCEOと、Googleの幹部。
そこから対話を重ね、2008年3月、サンドバーグはFacebookに入社する。
肩書きは、COO。
当時のFacebookは、創業からまだ4年だった。
サンドバーグは後に、この転職を自ら振り返っている。
複数の会社からCEOの椅子を提示されていた。
それを断り、COOとしてFacebookへ行った。
周囲には「なぜ23歳の下で働くのか」と言われたという。
答えは、シュミットの教えの通りだった。
肩書きではなく、ロケットを選ぶ。
与えられた仕事は、Facebookの事業を拡大し、世界へ広げること。
営業。
マーケティング。
事業開発。
人事。
政策。
コミュニケーション。
会社を動かす仕事を、ザッカーバーグの直属で担った。
ザッカーバーグが、プロダクトを見る。
サンドバーグが、会社を見る。
この役割分担が、Facebookの成長を支えていく。
『ユーザーがいる』を『収益がある』に変えた
無料のサービスを、持続する事業へ
サンドバーグの仕事の中でも、大きかったのが広告事業だった。
Facebookには、ユーザーがいる。
だが、ユーザーが無料で使えるサービスを、どうやって持続する事業にするのか。
サンドバーグは、広告事業を育てていった。
2012年6月。
Facebookは、サンドバーグを取締役に迎える。
その発表で、ザッカーバーグは彼女をこう表現した。
「彼女は、Facebookを共に経営するパートナーだ」。
さらに、彼女がFacebookの成長と成功の中心だったと評価している。
同年の第2四半期。
Facebookの売上高は、11億8000万ドル。
うち広告売上は9億9200万ドル。
全体の84%を占めていた。
人が集まる。
広告主が集まる。
収益が生まれ、その収益を次の成長へ回す。
サンドバーグが担ったのは、広告を売ることだけではない。
『人が集まるサービス』を『収益が回る事業』へ変えることだった。
23歳のCEOに、経営を教えた
右腕は、トップの教師にもなる
サンドバーグの役割は、広告だけではなかった。
人を採用する。
組織をつくる。
経営文化をつくる。
会社が大きくなるにつれて必要になる仕事を、広く引き受けた。
2022年、サンドバーグがCOOを退任するとき、ザッカーバーグは14年間をこう振り返っている。
彼女は広告事業をつくった。
優秀な人材を採用した。
経営文化をつくった。
そして。
「彼女は私に、会社の経営のやり方を教えてくれた」。
ザッカーバーグ自身による評価だった。
これは、右腕の仕事を考えるうえで重要だ。
右腕は、トップの代わりに会社を経営するのではない。
トップが本来集中すべき仕事に集中できるよう、別の領域を引き受ける。
トップが見ていないものを見る。
足りない能力を補う。
ときには、トップ自身を育てる。
そして、組織として回る状態をつくる。
14年後、右腕は会社を去った
才能を、組織の力へ
2022年6月。
サンドバーグは、COOを退任すると発表した。
Facebookは、Metaへと名前を変えていた。
会社の規模も、事業の範囲も、2008年とはまったく違っていた。
14年間。
サンドバーグは、ザッカーバーグの代わりにはならなかった。
ザッカーバーグとは違う能力を持ち込み、会社を大きくする役割を担った。
プロダクトを作る人がいる。
それを事業にする人がいる。
未来を描く人がいる。
その未来を、組織として実現する人がいる。
ザッカーバーグが、『人をつなぐプロダクト』を作った。
サンドバーグが、それを『持続する事業』へ変えた。
その仕事があったから、Facebookはスタートアップから巨大企業へ成長していった。
右腕とは、トップの才能を、組織の力へ変換する人間のことだ。
関連記事