累計2,300室以上、契約継続率98%。専門特化の清掃を支える設計者
運営設計の調律師 ―ホテル客室清掃を、仕組みで成立させる若き取締役の流儀。
株式会社Clears 取締役 池田 尊威
「アクセルを踏んでもらった方が、僕は自分が強くなるチャンスだと思っているんです」
大阪・京都を中心に、ビジネスホテルからラグジュアリーホテル、民泊まで多様な施設で累計2,300室以上の客室清掃を手がけてきた【株式会社Clears】。契約継続率98%、ベストベンチャーWEST100にも選出された注目企業の現場運営を支えるのが、若き取締役・池田尊威だ。
代表とともに創業し、4年で会社をここまで育ててきた。本記事では、池田が編み出した『運営設計(オペレーションデザイン)』という右腕の流儀と、自社開発SaaS【corelead】を生み出した次のフェーズに迫る。
ぬるっと始まった、二人三脚──営業代行で出会った同期が、共同創業者になった日
Clearsの始まりは、決して劇的なものではなかった。
池田が前職で出会ったのが、代表だった。同じ業務委託、同じスタートライン。年齢は代表がひとつ上。立場は完全な同期だった。
「『一緒にやろう』と代表から言われて、ぬるっと始まった感じです。はっきりした返事すらしてなくて」。代表は清掃業界を変えたい、最終的に客室清掃業界の課題を解決したいという熱い思いを池田に話し、共に動いていった。
最初に踏み込んだのは、飲食店のダクト清掃と民泊の清掃。半年も経たないうちに、ホテルの客室清掃という軸にたどり着いた。
ホテル客室清掃は、見た目以上に専門性が問われる領域だ。チェックアウトからチェックインまでの数時間で、数十人のスタッフが現場を動き、客室を完成させなければならない。最初の現場では、池田自身が初心者スタッフを率いる現場リーダーとして入った。
「最初の立ち上げが、いちばん体力的にも精神的にも頑張った時期でした」。
経験者だけを集める余裕はなかった。1日10〜20人が動く現場を、初日から客先のホテル基準に合わせる。10時から15時という限られた時間内で完結させる。このプレッシャーの中で、池田は自身の『運営設計』のスキルを磨いていった。
夜中の電話に、走る理由──ホテル清掃の現場が、信頼で成り立つということ
ホテル清掃の責任は、清掃業務だけにとどまらない。連泊客の私物の所在、客室備品の管理、貴重品やホテル備品の取り扱い──すべてがホテルの運営品質に直結する。
夜中、客室で何かが見当たらないと連絡が入れば、その都度確認に走る。客の置き忘れか、清掃側のミスか、その場では判別がつかないことも多い。それでも『まずは届ける』。なお、現在は運営体制として先手で対策を打っているため、夜中の電話で走ることは無い。
「お客さまの滞在を止めない。それが、客室清掃を任される側の責任なんです」。
池田は、こうした夜間の対応を業界の中の『当たり前』として捉えている。客室清掃を任せてもらえるということは、ホテルの運営品質そのものを預かるということ。だからこそ、原因が判別しにくい場面でも、まず動く。
そして、こうしたインシデントを起こさないために、池田が徹底してきたのが『仕組みでの予防』だ。
「大変だと感じることが起きたら、それが二度と起きないように、徹底的に先にルールで止める。最低でも一定期間の研修を経た人しか、重要な作業に触れない、というラインを社内で決めています」。
過去にフロアキー紛失のヒヤリハットも経験した。マスターキーは、ホテル運営にとっての生命線だ。だからこそ、池田は『現場責任者の質』を、Clearsの最重要指標と位置づけてきた。──現在、累計2,300室以上、契約継続率98%という数字は、この一貫した姿勢の積み重ねから生まれている。
運営設計の調律師──アクセルとブレーキ、その役割の補完関係
Clearsには、明確な役割分担がある。
代表は、対外関係の拡大を担う。ホテル運営会社との関係構築、銀行との折衝、ネットワーキングと営業活動。広く、高く、踏み込んでいくアクセルの役割だ。
池田は、現場部門のマネジメントが主。シフト設計、品質基準の策定、現場責任者の育成、稼働予測に基づく人員配置。組織の動きを安定させる、運営設計の役割を引き受けてきた。
「代表と僕は、考え方がかなり違うんです。
だからこそ、役割が綺麗に分かれた」。
性格も思考も対照的な二人。だが、池田はそれを補完関係として前向きに捉えている。
「アクセルを踏む人と、方向を調整する人。両方いないと、組織は前に進めない。代表が前で踏み込んでくれるから、僕は後ろで設計に集中できる。お互いがお互いに変な攻め方をしないので、関係は崩れにくいと思っています」。
代表が直感とスピードで決断する時、池田は予測し、先回りし、現場が動ける形に整える。代表が広げてきた関係から入った案件を、池田と現場チームが品質と継続率で支える。このサイクルが、Clearsの現在の競争力を作っている。
人のやる気には、期待しない──感情ではなく、設計で組織の体温を一定に保つ
池田のマネジメント哲学は、感情論を排した一貫性がある。
「人のやる気には、期待しないようにしているんです」。
一見すると冷たく聞こえる、この言葉。だが、その奥にあるのは、誰もが同じ品質を提供できる仕組みへの深い信頼だ。
「やる気を出せる能力と、実際にやる気を出すことは別なんです。だから、やる気がなくても品質が担保される仕組みが必要だと思っています。スタッフ一人ひとりに過剰な期待をかけず、誰が入っても回る運営を設計する。これが、現場責任者の質を担保する一番の近道です」。
Clearsの現場運営は、根性論ではなく設計に基づいている。ホテル別の稼働傾向、地域イベント、予約動向。こうした変数を読み込み、人員配置を最適化する仕組みが整備されている。だからこそ、人手不足下でも品質が落ちない。
そして池田自身は、業務をエリアマネージャーや部長に委譲し、現在は組織全体のマネジメントに専念している。客室清掃の知見を持つ管理職層が、現場と本部をつなぐ。これが、ビルメンテナンス企業が片手間に手がけがちな客室清掃領域で、Clearsが専門特化企業として差別化できている根拠だ。
一方で、池田自身が今取り組んでいる課題もある。
「厳しさと優しさの線引きが、まだ自分の中で精緻になりきっていないんです。人によって、どこまで踏み込んでいいかの加減が違う。それを早い段階で見極められるようになりたい」。
自社SaaS【corelead】が、次の景色を作る──現場×ITで、業界の構造を更新していく
Clearsが次に踏み込んでいる領域は、自社開発SaaS【corelead】だ。2026年8月のリリースを目指して、ホテル客室清掃に特化した業務基幹システムが現在進行形で形になりつつある。
「客室清掃を、データで判断できる仕組みにしたい。進捗、人員配置、品質状況を一元管理して、遅れや人手不足があればその場で配置を調整する。感覚ではなく、設計で現場を回せる状態にしたいんです」。
ニッチだが、ホテル運営の生産性に直結する領域だ。Clearsが現場で磨き続けてきた運営ノウハウが、そのままシステムに実装されている。
そして、3〜5年先を見据えた池田の視座も、清掃業界の枠を超えて広がっている。
「もともと観光業界が好きなので、清掃という領域にとどまらず、いろんな事業をやりたいと思っています。直接的なアプローチで、観光業そのものに直接貢献できることもしていきたい」。
代表との関係性についても、池田は穏やかに、しかし確信を持って語った。
「最近は代表が周りを見るようになって、少し抑えているように感じる時があるんです。でも、代表のアクセルが弱まると、僕がブレーキを踏む意味も薄れてしまう。もっと感情を出して、想定外を引き起こしてくれていい。それを成立させるのが、僕の仕事だから」。
「想定外を引き起こす人じゃないと、ナンバーワンはできないと思っています」。
代表への信頼は、馴れ合いでも忖度でもない。役割の補完関係を、池田が真っ直ぐに肯定している言葉だ。
譲れないものを、先に決めておく──右腕として孤独に立つ、すべての人へ
最後に、これから右腕になっていく後輩たちへ、池田はこう語った。
「代表とナンバーツーがやることは、しっかり違うんです。変に競い合うのは、よくない。それより、自分が譲れないこと、最低限やりたいことを先に決めておいた方がいい。じゃないと、絶対どこかで自分の殻が出てきて、ストレスで動けなくなるから」。
そして、もう一つ、池田が言葉にしたのは『曖昧さを残すこと』の価値だ。
「白黒はっきりさせたい時代だからこそ、相手の領域を侵さず、敢えて曖昧な線引きを保ちながら柔軟に動く。日本人の組織には、その曖昧さが必要な場面がある」。
だから今日も池田は、現場には立たない。代表が広げてきた案件を、エリアマネージャーや部長に委譲し、自身は組織全体のオペレーションを設計している。代表がアクセルを踏み込めば、池田はその方向を整える。二人三脚は、こうして次のフェーズへと向かっていく。
もしいま、あなたが社長の右腕として、「自分はトップと違うタイプで、合わせるのが難しい」と感じているなら、池田はこう言うはずだ。
「合わないからこそ、補完できる役割がある」。
編集後記
池田さんへの取材で最も印象的だったのは、「仲が良いわけではないんで」と断言する際の、迷いのない眼差しだった。それは馴れ合いでは無く、役割の補完関係のみで生き延びてきたプロフェッショナルである。
社長は意思決定をし、現場は実行する。その間を埋める変換という仕事は、非常に地味で、成果としても見えにくい 。しかし、この仕事がなければ、どんな偉大なビジョンも、どんなに踏み込んだアクセルも、ただの暴走で終わる。
池田取締役がいなければ、会社は回らない。――いや、彼のような『ブレーキ』がいなければ、組織は長くは持たない。
プロフィール
営業代行会社で業務委託として勤務。同社で出会った代表とともに、4年前にClearsを共同創業。創業初期は飲食店ダクト清掃・民泊清掃から事業をスタートし、半年以内にホテル客室清掃へと事業の軸を確立。現場リーダーから現場部門の統括、運営設計、人材育成までを一貫して担当し、現在は取締役として組織全体のマネジメントに専念。客室清掃に特化した自社開発SaaS【corelead】の事業化も推進している。
会社概要
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