「社長が現場に出るのは、かっこ悪いと思ってるんで」。

軽貨物物流を主軸とする株式会社UP(ユーピー)に、そう言い切る男がいる。

すべては、あの1年半から始まった

坂部の基礎は、前職で過ごした1年半で作られた。

「人の追い込み方を、上司から叩き込まれましたね」。

若くして役職に就き、勢いで組織を回していた時期。その甘さを、徹底的に突かれた。

毎日、口内炎ができる。白髪も増える。会議では、答えられなければ終わる。逃げ場はなかった。

「無知な自分が一番きつかったですね」。

その時間が、坂部の中に基準を作った。そして同時に、一人の人間を絶対的に信頼するようになる。

「当時の上司である、今の社長だけは信用してます。家族も含めて他の人は信用してないんで」。

ペンタゴンからの始まり

2022年、坂部はその社長とともに独立する。同じ拠点のメンバー5人での離脱だった。同業にあたる前職との関係は断たれた。今もなお、仕事は受けられない。

「まあ、最初から無い前提でやればいいだけなんで」。

不利を、前提にする。そのぶん、他に集中する。

旧社名はユニークペンタゴン。五角形。今残っているのは3人だ。

役割は与えられたものではない。最初は横並び。

「これやってね、って言われたことはないです。勝手にやって、勝手に今の形になっただけです」。

現場は勿論、営業、配車、管理、火消し。必要なことは、全部やった。

やがて坂部は推進側に回る。取締役副社長、営業本部長、管理部長。肩書きは多いが、本人の定義はシンプルだ。社長が謝るための実務は、全部自分がやる。その役割を、当然のように引き受けている。

全部を担っても、軸は変わらない。

かっこよく仕事をする。ただそれだけだ。

月商900万円が消えた日

真の右腕としての実力が試されたのは、昨年だった。 最大の案件が1本丸ごと消え、月商の4割近くが吹き飛ぶという、会社が消滅しかねないレベルの危機が訪れた。

普通なら、ざわつく。空気が変わる。誰かが顔色をうかがい始める。

だが坂部は、何も変えなかった。変わったことを出さなかった。

「やばい雰囲気は、絶対に出さないようにしてましたね」。

現場には一切言わない。説明もしない。鼓舞もしない。代わりに、自分の動きを変える。

営業の回転を上げる。会える人に会う、電話をする、話をまとめる。
同時に、配車を組み替え、シフトを詰めて同じ人数で受けられる現場数を増やす。

裏側では、業務委託のドライバーにも声をかける。

若いメンバーが多い。稼ぎたい時期でもある。空気を崩さず、負荷だけを上げる。

「動けば取れると思ってたんで。ドキドキはしてなかったですね」。

言葉は軽い。やっていることは重い。数日で、新しい案件を押さえた。規模も近い。条件も悪くない。

翌月、売上は戻る。現場の誰も、あの一ヶ月の重さを知らないまま終わる。

「座ってるだけで電話がかかってくるのが、一番の営業なんで」。そう言って笑う。「動けば取れるんで」。

その一言に、迷いはない。やることをやれば、数字は返ってくる。そういう前提で動いている。

社長は、謝るためにいる

軽貨物業界では、社長がハンドルを握る光景は珍しくない。現場に入り、配達を回し、穴を埋める。だが坂部は、それを選ばなかった。

「社長が現場にいるのは、かっこ悪いと思ってるんで」。

現場に入れば、その場は回る。だが、会社は人に依存する。経営者は、経営をするべきだ。

だから、現場の泥は自分が被る。営業も、実務も、トラブルも。最終的な責任は、社長が持つ。

「最悪、社長が謝ればいいんで」。

自分が動く。社長が決める。この分業があるから、現場は止まらない。

結果を出すプロセスは、自分で考えろ

坂部のマネジメントは、甘くない。

「動いて当たり前。それなりの肩書きで来てるんで」。

ありがとうという言葉は、仕事では一言も発しない。代わりにあるのは、剥き出しの基準だ。

部下に武器は渡す。使い方は教えない。どうやって結果を出すか。見ているのは、過程ではなく結果だ。

やっている風や、変わったふりはすぐに見抜く。

「今の管理数人がやっている仕事、全部ぼく一人でできますよ。まだまだですね」。そう言い切る。

会社の課題は、管理層の精度。スピードも、質も、まだ坂部の要求ラインには達していない。外から人を入れたこともある。だが、思った通りにはいかなかった。

「僕は育てたくない人なんで」。

そう言いながら、例外もいる。自ら声をかけて入社した、年下のメンバーだ。

「今年だけ、本気でやります」。期間を区切る言い方をする。だが、関わりは切らない。

放置もしないし、過保護にもならない。必要な距離で、見ている。

かっこよく仕事をする、その基準

責任は重い。だが、すべてを決められるわけではない。その中で、自分のやるべきことを決める。

・数字を作る
・組織を動かす
・社長を現場から切り離す

全部を背負う必要はない。必要なところで、結果を出す。

「管理は、自分よりできる人がいますよたくさん」。

足りない部分は認める。だが、やるべきことは曖昧にしない。坂部の考えは、シンプルだ。

「かっこよく仕事したいんです」。

形から入る。振る舞いを整える。無駄を削る。それは見せかけではない。再現できる型にするためだ。

どうやれば、同じ結果を出し続けられるか。その一点だけを見ている。

5年後、20億、30億の規模を見据える。だが、言葉は増えない。

「大事なのは、結果ですね」。

夢でもない。努力でもない。残るのは、結果だけだ。

それが彼のかっこよさなのだ。

しんどさを引き受けるという仕事

「二番手は、一番しんどい立場なんで。それをどれだけ軽く捉えられるか、それだけです」。

坂部は、そう言い切る。社長の決断を受ける。現場の歪みを受け止める。間に立つ以上、逃げ場はない。

上にも、下にも、言い訳は通らない。最後は、自分で引き受けるしかない。

その上で、結果を出す。それだけだ。

無茶な判断も、現場で起きるトラブルも、最終的には自分のところに落ちてくる。それを止めずに回す。

誰にも文句を言わせない形に変える。その積み重ねでしか、会社は前に進まない。

あなたも一度はあるはずだ。これ、自分がやるしかないな、と飲み込んだ仕事。

本当は納得していないのに、黙って引き受けた無理難題。誰かのミスを、自分の判断でなかったことにして処理したあの日。

その場では誰にも気づかれない。しんどいわりに評価には繋がりにくく、褒められることもまずない。

だが、坂部はそんなあなたを安易に慰めたりはしない。

 「きついこともあるけど、かっこよく笑い飛ばせるようにしないといけないですね、右腕なら」。

そのしんどさを引き受けてきた分だけ、あなたは現場の本当の姿を一番知っているはずだ。上の無茶も、下のリアルも、その両方が見えている人間は、組織にそう多くはない。

あなたが飲み込んできた分だけ、現場のことを分かっている。
だから今日も、止まっていない。

【編集後記】

「僕は社長と大光通商の伊禮代表以外、誰も信用していません、まじで」。

そう言いながら笑う姿に、違和感はなかった。むしろ、その前提だからこそ、組織が回っているように見えた。

期待しない。だが、見捨てない。彼のような、結果主義の番人がいる組織は、たとえハンディキャップを背負っていても、最後には必ず勝ち残る。その勝利を、彼は誰よりも確信している。