2代目の設計図 ―3年後の交代に向けて、攻めを担う若き右腕の流儀。

「入った時からずっと、僕、経営したいんですって伝えていました」

京都を拠点に、関西エリアの民泊・ホテル清掃を専門に手がける【株式会社PLECO】。年間3,000件以上の清掃を安定的に提供し、観光地・京都の宿泊体験を陰から支える企業の現場運営と外部交渉を一手に担うのが、23歳の取締役・林だ。

保育士を目指していた青年が、なぜ23歳で清掃企業の取締役となり、3年後の代表交代に向けたロードマップを描いているのか。本記事では、林が編み出した『攻めを担う2代目』の流儀と、入社1年目に売上を半分まで意図的に減らした再スタートの判断に迫る。

保育士から、ベンチャー転職一点狙いへ──編入試験の失敗と、ホテルバイトの倒産が重なった春

滋賀県出身の林は、もともと保育士になるつもりだった。京都の学校を卒業し、幼稚園の先生になる──そんなキャリアを当然の前提として受け止めていた。

だが、保育の現場を見て、自分の未来が想像できなくなった。

「保育士のキャリアの限界を見てしまったときに、子どもの頃の理想のまま保育士をやっていても、未来があまり想像できなくて。それだったらリスクを負ってでも何か挑戦したいなと思って、起業精神みたいなものが芽生えてきました」。

最初に目指したのは、ITで起業すること。経営学部への編入試験に挑むため、ホテルでのアルバイトと並行して受験勉強に打ち込んだ。だが、人生の歯車が変わったのは、この春だった。編入試験に落ち、ほぼ同じタイミングで、勤めていたホテルが突然倒産。働く場所も、進学先も、同時に消えた。

普通なら焦って近場のアルバイトを探すところを、林はあえて条件を厳しく絞り込んだ。

「ベンチャー企業のアルバイトで、経営に関われそうなところ」。

そんな求人を探していた林が辿り着いたのが、立ち上げから数ヶ月のPLECOだった。代表との面接で何より惹かれたのは、独特の働き方。シフト制でも時給制でもなく、『1件いくら』の直行直帰。チェックインまでに清掃を終わらせれば、出勤・退勤時間は自由。稼ぎたければ稼げる、自由でフラットな仕組み。

そして、入社初日から、林は同じ言葉を繰り返し代表に伝えていた。

「僕、経営したいんです」。

半年後、その言葉は受け止められた。林は経営に関わる役割を任されるようになり、通信制大学の経営学部にも編入。23歳で取締役に就任した今、保育の学位を持ちながら経営学を学び続ける、異色のキャリアが完成している。

1年目の屋台崩れと、半分まで減らした決断──案件を絞ったことで、ようやく品質が立ち上がった

だが、PLECOの初期は、決して順風満帆ではなかった。

「アルバイトに伝達ミスがあって、間違った物件に行ってしまってゲストを怒らせるとか、清掃のクオリティが甘くて再入室させられるとか。チェックインに間に合わなくなって、別の物件のチェックインも遅れる連鎖が起きるとか。そういうのが、ほぼ毎日起きていました」。

社員それぞれが個別に出勤・退勤する仕組みゆえ、情報共有の頻度も低く、関係性も育ちにくい。クレーム対応の責任も明文化されておらず、『なんで俺がやらなあかんねん』という空気が、現場に静かに広がっていく。設立2年目を迎える前のPLECOは、案件量に組織が追いついていなかった。

ここで、林と代表が下した判断は、決断としては勇気のいるものだった。

「一回、案件をピークの半分まで減らそう」。

売上は損益ギリギリまで落ちる。だが、自分たちが品質を担保できる範囲まで仕事を絞り、そこから再スタートを切る。組織のキャパシティに合わせて、戦線を縮める判断だった。

月1回の全社ミーティングを設定し、マニュアルを言語化し、ガチガチに固める作業を、林と代表で繰り返した。これまで個々の裁量に任されていた清掃手順を、誰が入ってもクオリティが揃う形へと整える。これが、現在のPLECOが『年間3,000件以上の清掃を安定的に提供』できる土台になっている。

再スタートから1年。林が外部営業に動けるようになり、自社で案件を取れる体制が整ったのは、3年目のことだ。それまでは管理会社経由の案件に頼っていた構造から、WEBでの集客や経営者の会での開拓を組み合わせた独自パイプラインへ。事業を加速させる準備が、ようやく整った。

攻めの林、守りの代表──性格が真逆だから、補完できる役割分担

PLECOの組織には、明快な役割分担がある。

代表は、対人関係と人選びに圧倒的な強みがある。求人サイトに頼らず、友達の友達まで遡って『この人』と決めた相手を熱意で口説き落とす。情熱で人を集める力に、林は心から敬意を持っている。

「代表は本当に人を見る目があって。今までうちに入ってくれた方は、すごくいい人ばかり。だから僕は採用には基本的に口を出さない。そこは完全にお任せしているところです」。

加えて、代表のもう一つの強みは、リスクを見抜く力だ。林が新しい案件や提携先を持ってきたとき、『この企業、ちょっと危なくないか』『そこにはこういうリスクがある』と、林の見えていない穴を指摘してくれる。──林の攻めを安全に成立させているのは、代表の守りなのだ。

「代表が守りが強いから、僕は強気で攻めにいける」。

林の自己分析も率直だ。自分の強みは『若さと向上心』、そして『攻めを担う力』。守りは正直、得意ではない。だが、代表という後ろ盾があるからこそ、攻めに集中できる。お互いの不得意を補い合えるからこそ、二人三脚は前に進む。

そしてPLECOには、社内に明文化された一つの哲学がある。

「最初の代表は、勢いでとりあえずゼロから1を達成する。形を作ることが仕事で、それができたら2代目に託していくフェーズに入る。2代目は、すべてができないとダメ。守りも攻めも、両方できる人間でないと、というのが、僕たちの考え方です」。

だが、林はこう付け加える。

「2代目が、ぜんぶを自分でやる必要はない」。

「うまく周りを使って、守りも攻めも回せる状態を作る。それが2代目の仕事です。僕の場合、攻めは自分でやって、守りは代表という最強のリソースに任せている。これから僕がやるべきは、守りが得意な社員を見つけて、その人を教育していくこと」。

23歳で取締役という肩書きを持ちながら、林は『自分一人で完結する経営者像』を初めから持ち合わせていない。組織の中の役割をパズルのように組み合わせる、設計者としての視点。これが、保育で培った観察眼と、経営学で学んだ理論の交差点に立っている。

論理で受け入れ、軸はぶらさない──他者を後回しにできる人を、仲間に選ぶ

林の人選びの基準は、極めて明快だ。

「一番見ているのは、他者への思いやりがあるかどうか」。

「清掃って、なぜここを綺麗にするのか、と考えたときに、ゲストのことを考えます。ここの整え方を変える、ここに置き方をこう変える、入ったときにこう見えるから気持ちいいよね、と常に使う人や一緒に働く人のことを考えてくれる人はすごく信頼できる。自分を後回しにできる人。そういう方を、僕たちは常に探しています」。

PLECOの代表が情熱型で人を集め、林が論理型で組織を回す。だが、両者に共通するのは『他者を中心に置く視座』だ。

そして、組織内の対話では、林は『論理で受け入れる』スタンスを徹底している。

「僕は論理的に意見するタイプで、理由があったら、自分が納得できないことでも納得できる。『ここは違うな』と思っても、相手に理屈があるなら、それに乗っかれるところが強みだと思います」。

社員が自分とは違う判断を下したとき、まず受け入れる。話を聞き、相手の理由を理解する。それでも組織として軌道修正が必要な場合は、根拠を示して伝える。頭ごなしに否定はしない。だが、軸はぶらさない。

理不尽な指摘や、契約範囲外の要求が来たときには、林ははっきりと『そこは僕たちの責任範囲ではない』と伝える。常に、平等。下に出ない。清掃という、構造的に下請けに見られやすい業態だからこそ、林はこの姿勢を意識的に貫いている。

「理不尽には強気で、平等に振る舞う」。

料金交渉でぶつかることもある。年間契約のクライアントから、相場よりも下げてほしいと持ち掛けられても、譲れないラインは譲らない。それで関係が切れることもある。だが、強気の姿勢を取り続けることが、結果的に社員と業務委託パートナーを守ることになると、林は確信している。

3年後、代表になる──民泊清掃から、現地に人がいなくても回る仕組みへ

PLECOがいま見据えているのは、事業構造の転換だ。

民泊・ホテルの定期清掃という主軸は、確実に利益を生む一方で、構造的な天井もある。チェックアウトからチェックインまでの限られた時間枠で動かざるを得ず、繁忙期と閑散期の差も激しい。事業を伸ばし続けるには、別の柱が必要だ。

「現地に人がいかなくても、定期的に売上が上がるような仕組みを作りたい。具体的には、民泊管理の領域や、ハウスクリーニング、エアコンクリーニングといった特殊清掃。代表はパン屋やカフェといった、まったく別のジャンルにも興味があるみたいで。いま動きは出ているけれど、まだ形にはなっていない状況です」。

そして、林自身が描いている個人のロードマップは、明確だ。

「3年後、26歳で結婚することが、もう決まっているんです。だから、それまでに会社を仕組み化しておきたい。あと3年のタイムリミットで、僕が全力で頑張るしかない」。

3年で代表に認められるレベルに自分の守りを引き上げ、バトンタッチを受ける。代表は会長として身を引く。林にとって、これは単なる願望ではなく、決められたスケジュールだ。

そのために、林がいま自覚している自分の課題が、もう一つある。

「自分に説得力を持たせるための、見せ方を作りたい」。

「向上心と若さで突き進んできたけれど、これから上に立つ立場として、もっとついてきてくれる存在になるための見せ方が必要だと感じています。それがまだ見つかっていない。──ここが、僕の今の最大の課題です」。

失敗を、そのままにしない──右腕に、これからなる人へ

最後に、これから右腕になっていく後輩たちへのメッセージを問うと、林はこう語った。

「とりあえず、向上心は忘れずに。あと、よく『失敗を恐れるな』と言われますけど、僕は逆だと思っていて」。

「失敗を恐れずにではなく、失敗をそのままにしない」。

「失敗は誰でもする。でも、それを次に活かさない人は、また同じ失敗を繰り返す。改善し続けることのほうが、ずっと大事です。あとは、がっつくこと。とりあえずがっつけば、なんとかなることが多いです」。

そして、林が最も伝えたいのは、軸の話だ。

「代表には代表の考えがあって、それは自分の軸とは違う。そこに染まりすぎると、その人はその軸で動くのが得意だから動いているだけで、自分自身は別の軸を持っているはず。得意・不得意をしっかり見極めて、自分の軸を持って、その軸の下で進む。迷ったら、一回振り返って『でも僕はこういうスタンスでいるから、ここはこう言わないと』ともう一度考える。これが、結構大事です」。

「染まらない。軸を、ぶらさない」。

だから今日も林は、京都市内の40施設を回し、20件のチェックインを束ね、新しい営業先と話し、代表と次の事業の柱を議論する。3年後の代表交代まで、残された時間はすぐ過ぎ去る。

もしいま、あなたが社長の右腕として、「自分にはまだ実力がないのに、ポジションだけ先に来てしまった」と感じているなら、林はこう言うはずだ。

「入った時から、なりたい自分を言葉にしておけ」。

編集後記

林氏に取材して印象に残ったのは、人生のロードマップが極めて明快に固まっていることだった。23歳で取締役、26歳で代表交代を見据え、プライベートの予定もタイムリミットの一部として組み込んでいる。これだけ計画的に動ける人は、なかなかいない。

PLECOには、『最初の代表は形を作る役、2代目はすべてを回せる役』という哲学が明文化されている。PLECOの次のフェーズを、林氏自身が描き切ろうとしている。