抜かぬ刀の設計図
坂本龍馬の裏で交渉を設計した右腕・後藤象二郎
国を変えるには、血を流すしかない。
そんな空気が、日本を覆っていた。
幕末の動乱期。
倒幕か、佐幕か。どちらにつくかで、生死が分かれる時代だった。
理想を語り人を動かしたのが、坂本龍馬である。
だが、理想は放っておけば、すぐに戦争へと変わる。
そこで現実側に立った男がいる。土佐藩の実務家、後藤象二郎だ。
右腕は、戦場に立たない
龍馬がやったのは、思想を語ることだった。
身分を超え、国を変える未来を示した。
後藤がやったのは、その思想を交渉可能な形に整えることだった。
・誰が決定権を持つのか
・誰が損をし、誰が得をするのか
・どこまで譲れば、戦わずに済むのか
感情を切り離し、人間関係と利害を 一つずつ整理した。
勝つためではなく、終わらせるための判断
後藤が考えていたのは、どう勝つかではない。どう終わらせるかだった。
後藤は龍馬が描いた船中八策という夢に、具体的な交渉の骨組みを与えた。
誰が主導権を握り、誰に利を与えれば、徳川という巨大な重石を静かに下ろせるのか。
彼は政治の表舞台で、戦場ではなく会談の席で知略という刃を振るった。
流血を回避するための設計
彼が求めたのは勝利ではない。
凄惨な内戦を回避し、いかにこの狂乱を終わらせるか。武力での打倒は報復の連鎖を生む。 だから後藤は、血に濡れた刀ではなく、大政奉還という前代未聞の奇策を文書にした。
勝者を作らないという、究極の出口。
徳川の誇りを守りつつ、政権を朝廷へ返す。諸藩の不満を抑え込み、新政府への正統性を持たせる。
この冷徹なまでの利害調整こそが、数千万の命を救ったのである。
右腕は、現実の礎
英雄として語り継がれるのは坂本龍馬だ。
だが、その理想が内戦という地獄に沈むのを食い止めた男は、もっと評価されるべきだ。
未来を夢想したのが龍馬なら、その足場を死守したのが後藤象二郎。
二人の執念が重なったとき、日本は血の海を越え、新しい夜明けへと辿り着いたのである。
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