組織の嘘に絶望し、信じていた人に裏切られた男が、最後に手にしたのは『自分を殺さない』働き方だった。

上場企業の『死んだ目』

「我慢が約束された人生だと思っていました」。

濱田は、かつて自分がいた場所をそう振り返る。

上場企業のオフィス長。安定した給与、建てたばかりのマイホーム、愛する家族 。外から見れば、それは成功の象徴そのものだった。だが、その内側を支配していたのは、事なかれ主義という名の巨大な沈黙だった。「100:0で相手が悪くても、組織は五分五分で収めようとする。真実よりも、波風を立てないことが優先されていたんです」。

その嘘を見過ごせず、声を上げるたびに、空気が変わる。気づけばよく喋る、うるさい奴になっていた。

大人が1日に笑う回数は平均30回。当時の濱田は、一度も笑えない日を数える方が早かった。

8つの組織を渡り歩く

濱田のキャリアは、定着ではなく、移動の連続だった。

19歳で社会に出てから、所属した組織は8社を数える。終身雇用が当たり前、転職が逃げや忍耐不足と言われていた時代だ。一箇所に留まれない自分を、責めたこともある。だが、その移動の中で、濱田はひとつの事実に気づく。

組織は、文化で決まる。

飲食の店長、上場企業、ベンチャー。新人、下っ端から店長、管理職。様々な業界や立場を経験した。どの組織にも共通していたものがあった。人を大事にしない組織は、必ず歪みが生じる。その歪みは、すぐには表に出ない。だが、確実に積み重なり、いつか崩れる。

濱田は一社に留まっていては決して見えない景色を収集していった。異なる文化、異なる朝礼、異なる理不尽。彼はバックパッカーのように、複数の組織という異国を旅し、異文化に触れた。そのたびに同じ結論に辿り着いた。人を大事にしない組織は衰退するという、残酷な真実を。

友という名の、最大の欺瞞

濱田の心を最も深く削ったのは、組織の理不尽ではなく、人だった。 学生時代からの友人。表向きはブランディングの為に聴き心地の良い言葉を並べる彼を、濱田は役員として、そして友達として支え続けた。

だが、蓋を開けてみれば、そこにあったのは権威性や社会的地位だけを追い、人を置き去りにした振る舞いだった。

「人を大事にしないと、お前は終わるぞ」 。

濱田の最後の忠告に、友は言い放った。「今はそんなフェーズじゃない」 。 その瞬間、濱田の中で何かが音を立てて冷えていった。

その後、濱田は決める。もう、自分を削る場所にはいかない。正しさを押し付けるのでもなく、迎合するのでもない。自分が壊れない場所を自らで作る。

その選択の先にあったのが、株式会社For Twoだった。

AIと『余裕』の統治

現在、濱田は取締役として、共同代表二人の右腕、そしてCHROとして組織を見ている。ここには、かつて感じていたような違和感はない。「今は、ストレスはほぼないですね」。濱田はそう言い切る。

だが、それは何も起きていないという意味ではない。余計な摩擦がない分、本質的な判断が増えた。人をどう配置するか、どこまで任せるか、どこで止めるか、、、日々、判断の連続を迫られている。

会社が掲げるのは、『四つの余裕(お金・時間・つながり・健康)』という、極めて人間的なビジョンだ。濱田の仕事は、代表二人の発想をそのまま通すことではない。それが本気なのか、あるいはただの思い付きなのか。実現できるか見極め、ジャッジする。

「おじいちゃんになっても、末永くよろしくって言ってるんです」 。 そう笑い合える関係。だが、そこには馴れ合いではない、プロとしての緊張感がある。AIを活用し、少人数で組織を回す。人が増えることで見えなくなる感情のノイズを嫌い、敢えて拡大を急がない。それもまた彼の判断だ。

右腕は、御用聞きではない

右腕とは、言われたことをそのままやる人間ではない。そのまま伝えれば、組織は壊れるからだ。人と業務の間に立ち、感情の機微を仕組みに変換する。感情をそのまま流さない。だが、消すわけでもない。それが、組織を壊さないための仕事だ。

濱田は、同じ立場の右腕たちへ、静かにエールを送る。

「右腕の仕事は、単なるトップダウンの調整役ではありません 。会社全体を俯瞰し、人の気持ちという不確定な要素を重要視しながら、組織を円滑に進めること。 その能力がある方にとって、このポジションは最高の舞台になるはずです」 。

彼は今、マンダラチャートを広げ、自分と組織の余裕を緻密に設計している 。 8度の転職を経て、彼が辿り着いたのは自分が自分を殺さずに済む場所を自ら作り上げるという、究極の自立だった。

わかった気になるな、一歩踏み込め

理不尽な上司に振り回される日もある。

納得できない判断もある。

それでも、その場に立ち続けるのか。それとも、離れるのか。正解はない。

ただ一つ言えるのは、自分を殺し続ける場所に居続ける必要はない、ということだ。

濱田は、同じ立場の人間にこう言う。 「自分の譲れないものは、先に決めておいた方がいい」。それがないと、他人の意思に引きずられ、どこかで壊れるからだ。

「分かった気になるな、一歩踏み込め」 。 そうしないと、見えているつもりで、何も見えていない 。 かつて笑えなかった濱田を救った言葉が、今、悩み苦しんでいるあなたに向けられている。

【編集後記】

濱田さんへの取材で印象的だったのは、「いま、ストレスがほぼゼロ」と言い切る際の、あまりに爽やかな表情だった。それは多くの組織を渡り歩き、嘘や裏切りを経験した上で、自分の立ち位置を決めた人間の顔だった。 自分の輪郭を磨き続けた者だけが持てる平熱を保つ強さ。8社経験という数字は、単なる職歴の多さではない。それは、誰よりも多くの組織の『死』と『生』を見届けてきた証だ。彼のようなハブがいるからこそ、組織は回る。