逃げ道を用意した男
豊臣政権を延命させた右腕・前田玄以
天下は、取ったあとが一番危うい。
統一とは、勝利ではなく不安定の始まりだからだ。
頂点に立ったのは、豊臣秀吉。
だが、権力は秀吉一人に集中しすぎていた。
反発は、表に出ない。
不満は、数字にもならない。
それでも、確実に溜まっていく。
その空気を、誰よりも早く感じ取っていた男がいる。
豊臣政権の実務を支えた僧官、前田玄以だ。
トップは、固めにいく
秀吉は急いだ。
全国を一気に支配下に置き、異物を排除し、反抗の芽を摘もうとした。
それは、短期的には正しい。
だが、正しさは反動を生む。
力で抑えれば、恨みが残り、その恨みは必ず次の混乱の種になる。
右腕は、崩れる速度を読む
前田玄以は、天下を永続させようとはしなかった。
考えていたのは、いつ、どこで、どの程度崩れるか、ということだった。
だから、
すべてを握らない。
すべてを決めない。
すべてを敵に回さない。
右腕の仕事は、勝ち続けることではない。
壊れ方を緩やかにすることだった。
政権を延命するための設計
玄以が行ったのは、徹底した分散だった。
・権限を一箇所に集めず、宗教勢力と絶妙な距離を保ち、大名の面子を潰しすぎない。
支配を強めるほどに、敢えて逃げ道を残す。
それは、一見すると弱さに見える。だが、それこそが反乱を遅らせるための、したたかな強さだった。
残ったのは、時間を稼ぐという価値
豊臣政権は、いずれ崩れる運命にあった。
だが、前田玄以がいたことで、その崩壊は一気には来なかった。
右腕とは、勝利を永遠にする人間ではない。
敗北を先延ばしにして、意味のある時間をつくる人間だ。
前進をつくるのがトップなら、崩壊の衝撃を和らげるのが右腕。
彼がいたからこそ、激動の時代は致命傷を避け、次の時代へと繋がる余白を残せたのである。
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