「嘘をつかない」という最強の生存戦略〜本田宗一郎の右腕・藤沢武夫が“設計”した起死回生〜
売り上げが落ちた。それだけなら、まだよかった。絶望は、具体的な「金額」と「期日」を伴ってやって来た。
海外から買い付けた最新鋭の機械。その購入代金、4億5000万円※現在の価値で約100億円以上。支払い期日が目前に迫る中、売り上げの急降下は従業員の給料すら危うくしていた。組合は激昂し、社内の空気は鉛のように重い。
本田宗一郎は言う。「ただしゃにむに前進あるのみだった」——。
トップには、圧倒的な熱狂と意気がある。だが、この局面で会社を救うのは意気ではない。「現金」だ。そこで、藤沢武夫が動いた。
修羅場の入り口で、藤沢は“逆の手”を選んだ
のちに藤沢はこう語っている。「私は決してうそをいわなかった」
危機のとき、人は情報を隠したくなる。外に漏れたら終わりだ、と。だが藤沢は、その心理の「逆」を突いた。噂は“空白”に棲む。情報を包めば包むほど、悪い憶測が増殖する。憶測は銀行の足を止め、金が止まれば、会社は即死する。
だから隠さない。ただし、正直に「やばいです」と言うだけでは無能だ。彼が行ったのは、現状の徹底した「開示」と、未来への「言語化」だった。
右腕の仕事は「勇気づけ」ではない。まず目の前の“止血”だ
藤沢は、従業員に現状を包み隠さず伝え、協力を要請した。同時に、取引先や銀行にも「見通し」を含めて、具体的な応援を依頼して回った。
ここが肝だ。社内の不安を止めるのも、社外の不信を止めるのも、同じ構造でできている。情報を出し、空白を消す。恐怖が増殖する余地を、ファクト(事実)で先に埋めた。トップの熱意を、現場や銀行が納得できる「論理」へと変換し、パニックを鎮める。これが右腕の果たすべき「定義」の力である。
資金繰りを“気合い”から“設計”に変える
そして藤沢は、現金を確保するために驚くべき手を打つ。彼がやったのは、単に売上を増やすことではない。「お金の戻り方(キャッシュフロー)」の仕組み自体を書き換えたのだ。
•製品を出荷して、十数日で代金を全額回収する。
•そのうち、75%を現金で。
•残りは手形だが、問屋手形ではなく、ユーザー自身の手形を問屋や代理店が裏判する。
圧倒的に早く、確実な回収サイクル。だが、この厳しい条件を相手に飲ませるには、強固な信頼関係や交渉力が要る。藤沢は「嘘をつかない」という姿勢で積み上げた信頼を、この局面で「回収の仕組み」へと換金したのだ。気合いで守るのではなく、ルールを定め会社を守る。
毎日がタイトロープ。一つでも手形を落とし損ねれば、全体に被害が及ぶ——そんな綱渡りを、彼は仕組みで渡りきった。
前進(熱狂)は本田がつくり、生存(仕組み)は藤沢がつくる。
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