借金1000万円から、10施設の経営戦略責任者へ
惚れた人にしかつけない椅子 ―社長を主役にし続ける流儀。
「右腕って、セコいんですよ」。
大阪・藤井寺を拠点に、放課後等デイサービス8施設、保育園1施設、生活介護・就労継続支援B型1施設の計10施設を運営する【株式会社PROmessa】。
子どもたちを預かる『ぽんぽこはうす』の経営戦略を背負うのが、消防士8年・借金1000万円・祭りの青年団長という異色の経歴を持つ都築 貫慈だ。
代表・板倉とは中学校の同級生。19歳から堺の祭りで青年団の右腕を務め、その関係性のまま2019年に経営に参画。本記事では、都築が編み出した自分が輝かない右腕の流儀と、人を介して結果を出す組織設計術に迫る。
祭りの青年団から、経営の右腕へ──中学の同級生と築いた、20年の二人三脚
都築の人生を貫く軸は、二つある。一つは、組織を知ること。もう一つは、惚れた人を支えること。
高校卒業後、消防士の道を選んだ。八尾市の消防署で8年。命を預かる現場、瞬時の指揮系統、報連相の徹底。軍隊形式に近い組織を、20代のほとんどを通して肌で覚えた。
「いきなりトップに立つ人もいるけれど、組織を知るという意味で、すごい土台になりました。報連相のセンス、部下の気持ちを汲むところ、組織での立ち回り。ここは消防の経験がなければ、わからなかったところです」。
もう一つの軸は、堺の祭りだ。中学校で転校した時、地域の祭りに誘ってくれたのが、現代表の板倉だった。
19歳から26歳まで、団長や役職を務めた。本来なら24〜25歳で団長を仕切る慣わしを、板倉と都築は10代終わりから7年間、上が飽きるほどに二人で回し続けた。当時11町ある中で団員数が少なかったエリアを、二人で断トツ1位、2位の3倍までに育てた。
「僕のナンバーツーの定義は、惚れた人にしかつけない、です」。
祭りの世界には、色々な人が絡むトラブルもままある。逃げずに二人で乗り越えてきた経験が、都築の中で信頼関係を作っていった。そして、その確信は、ビジネスの世界でも続いていく。
ボロボロの純喫茶で、引き受けた椅子──借金1000万円の起業家が、福祉のふの字も知らずに参画した日
都築が消防士を辞めたきっかけは、決して華々しいものではない。
「お恥ずかしい話、ギャンブルにハマって、消防士なのに借金1000万円ぐらいあったんです。友達5人ぐらいから100万円ずつ借りていて、絶対に裏切りたくないと思った。消防の給料じゃ何年かかるかわからない。それで、起業しようと思いました」。
高校生の頃、消防士になりたくて消防の人に話を聞きに行った経験を思い出した。経営者になりたいなら、経営者と喋ろう。居酒屋の大将、バーのマスターから始まり、紹介の輪を辿って、福井県の美容メーカー社長に出会う。その人から「チームが作れた人が経営できるんだ。自分の能力でいく人は大変だ」。という教えを受けて、独立した。
そんな矢先、中学から続く板倉から、何度目かのオファーが入った。
2019年、保育園の事業を始めるから来てほしい、という打診。場所は、ボロボロのタバコが吸える純喫茶。
「何を求めて、何を期待してる?」と尋ねた都築に、板倉はこう答えた。
「何も求めてない。好きにやってくれたらいい」。
そして、保育園の箱だけを渡された。家具を買うところから、保育士と話して職場の風土を作るところまで、すべて任された。
「給料は平均よりちょっと高めにする。サービス残業は絶対しないようにする。残業をする時は1分単位で申請。ただ残業代は会社としてもなるべく抑えたいから、チームワークでやろう。プライベートも充実させよう。仕事の時間の方が長いんだから、その時間がハッピーになると人生も充実する。だから、人の悪口を言わない、お互いを尊重する。それを最初に決めました」。
保育園は軌道に乗った。それを見届けた板倉から、本社業務にも入ってほしい、と声がかかる。福祉のふの字も知らない都築が、3店舗だった会社の経営戦略責任者として参画したのは、こうした経緯だった。
優しすぎる現場マネージャーと、上から言わない調整役──10施設に広がる組織で見えてきた、人を介する難しさ
3店舗から、4、5、6と拡大していく過程で、都築が直面した最大の課題は『人を介して結果を出す』ことの難しさだった。
「経営側の僕と、現場の統括マネージャーが並列のような形でいて、その下にエリアマネージャー、各施設にリーダーがいる構造です。あるエリアだけ、人事を変えても問題が起きる。原因はその人のスタンスにありました。優しすぎて、人に言えない。任せきれない。全部自分でやってしまう」。
結果、その人の人望は得られるが、会社への不信が生まれ、人が育たず、離職率も上がる。大切な子どもの命を預かる現場で、事故が起きてからでは遅い。
だが、都築にはもう一つ大きな制約があった。
「この人に、絶対に上から言わない、と決めているんです」。
統括マネージャーは、創業から一緒にやってきた現場のヒーローだった。事故を起こさず、保護者から信頼を得てきたのは、彼が現場に入り続けてきたのが大きな要因のひとつだ。
「僕が組織を見て、こうした方がいいんじゃないか、と言いたい時は、うまくそっちに持っていけるように気をつけています。社長と統括マネージャーに気持ちよく居てもらった方が、会社全体としてうまくいく」。
人を介して結果を出すマネジメントへ。本人が現場に入りすぎず、リーダー研修で組織階層ごとの役割を明確にし、権限移譲を徹底する。いまも都築が一番気をつけているのは、自身の振る舞いだ。マネージャーへの敬意を保ちながら、組織を確実に変えていく。この絶妙なバランスの中に、都築の右腕としての真骨頂がある。
自分にしかできない仕事しかやらない──主役を演出する人になる、と決めた瞬間
都築のポリシーは、極めて明快だ。
「自分にしかできない仕事しか、やらないです」。
これぐらいやれよ、と思われるかなと頭をよぎっても、絶対にやらない。理由は、全体を見れなくなるから。だが、もう一つ、より深い理由がある。
例えば、保育園のスタッフから「今度スタッフ内の懇親でバーベキューを企画したので、都築さんも来てください」。と誘われた時、都築は行かないと答えた。
「行けば喜ばれるし、頑張ってと労ってもらえるかもしれない。でも、僕はこの子を、みんなを主役にしたい。僕が行くと、僕に気を遣う人がいてみんなが主にならないかもしれない」。
だから今、都築が最も気をつけているのは、
自分よりも輝く人を、作ること
「主役を演出していく、プロデュースしていく。それが、本当の意味での右腕だと思っています。僕が輝いちゃうと、全部に行かなあかんなる。社長を光らせる、部下を光らせる。それをやっています」。
そして、決断に迷った時の判断軸も明快だ。社長への誠実さと、部下への誠実さ。背負っているものが大きいのは、決して都築自身ではない。社長が会社全体を背負っている。だから、社長の意図を読み、現場が動ける形を作る。それが、経営戦略責任者の仕事だと、都築は定めている。
好き、と言える社員を増やす──福祉の一本足打法を超えていく、次の挑戦
会社が見据えているのは、福祉業界の枠を超えた組織づくりだ。
「制度はじわじわ変わっていく。万が一、大事故が起きて評判が下がって、客が一気に減って、固定経費だけ残ったらどうするか。考えたらキリないんだけど、リスクは常に意識しています」。
だから、都築は意図的に外部に出る時間を作っている。経営者の会、異業種の社長との会食、新しい情報のキャッチアップ。社長が福祉以外のことをやろうと言ったとき、すぐに動けるように、自分の体と時間を空けておく。
そして、5年後の理想像について、都築はこう語った。
「働いている職員、特に若手が『この会社が好き』と思ってやってくれている状態が、一番の理想形です。給料を上げてやりがいで残ってもらう、それももちろん大事だけど、好きという気持ちで広がる輪があったら、嬉しい」。
バーベキューを開いていいですか?と若手が自発的に企画を持ってくる。出産・育児期も互いに支え合えるコミュニティがある。福祉という仕事を通して、社員一人ひとりの人生が豊かになっていく。それが、都築が見ている景色だ。
「一番のお客様は、働く人なんです」。
セコいポジションだから、勘違いしない──右腕に、これからなる人へ
最後に、右腕の人たちへ都築はこう語った。
「右腕って、セコいっちゃセコいんですよ。大した責任もないくせに、ポジションだけはある。社長に意見できる立場で、調子に乗れる、ある意味で美味しいポジションでもある。そこを勘違いすると、社長も嫌がるし、感謝もなくなって、部下にも勘違いしていく」。
そして、都築が後輩に最も伝えたいのは、自分の立ち位置についての解像度の話だ。
「社長の右腕、という言葉に、騙されないでほしい」。
「社長の右腕です、と言いながら、社長ばっかり見ていてもおかしい。会社全体を見ないといけない。誰のための右腕なんですか、ということです。会社のために、自分がどのポジションで活躍するかをちゃんと見ないと、おかしいことになる。そのための発言、そのための所作だと思っています」。
だから今日も都築は、社長と毎日連絡を取りながら、自分にしかできない仕事だけに集中する。リーダー研修を主導し、人材育成に時間を投下する。マネージャーを立てつつ、組織を整えていく。これが、消防士8年と祭りの青年団長を経た男が辿り着いた、右腕の仕事の輪郭だ。
もしいま、あなたが社長の右腕として、自分は前に出るべきか、引くべきか迷っているなら都築はこう言うはずだ。
「自分が輝くより、社長と部下を輝かせろ」。
編集後記
都築氏は、「社長に出会えたことが、一番ラッキーだったかもしれません」と言っていた。中学校で転校したあの日に出会わなければ、10施設を統括する経営戦略責任者になることはなかった。
人を介して結果を出す。自分にしかできない仕事しかやらない。社長を主役にし続ける。このセオリーは、右腕論の教科書としては、ありふれているかもしれない。だが、都築氏のそれは、堺の祭りで20年磨き続けた現場感と、消防の組織論と、借金を返すために独立した実体験で裏打ちされている。だから、言葉に重みがある。右腕はセコいポジション、と笑いながら言える人だけが、本当の右腕になれるのかもしれない。
プロフィール
大阪府堺市生まれ。高校卒業後、八尾市消防署に8年間勤務。在職中の借金返済を契機に独立し、美容関連の卸事業を起ち上げる。2019年、中学時代の同級生で堺の祭りで20年来の盟友でもある板倉 伴尚氏が代表を務める株式会社PROmessaに参画。保育園事業の立ち上げから始め、現在は放課後等デイサービス8施設・保育園1施設・生活介護/就労継続支援B型1施設の計10施設の経営戦略・組織設計・人材育成(リーダー研修)を統括。趣味は祭り(堺の青年団で19歳から26歳まで副団長・団長を歴任)。
会社概要
関連記事