恩返しの右腕 ―「社員の一番下から」で始まった、社長との3年間。

「全部やります。労働条件も一番辛くていい、給料も一番少なくていい。全部教えてください」

福井県出身の看護師が、初対面の社長にそう頭を下げて弟子入りしたのは、2023年の初夏。それから3年、大阪・兵庫・福岡・神奈川・佐賀で展開する【NewGate(ニューゲート)訪問看護ステーション】13拠点を、宮崎代表とともに走ってきた。

3年で100名の看護師・セラピストを採用し、業界に前例のない透明な人事評価制度で、前職の1.5〜2倍の給与を実現する【株式会社ARIA】。急成長を支える本部長・森下野亜が編み出した『社長の隣で走り続ける』流儀と、福岡支店単身立ち上げで学んだマネジメントの教訓に迫る。

福井の看護師が、大阪の社長に会った日

全ヒエラルキーの一番下から、3年で本部長へ

森下が【NewGate訪問看護ステーション】に出会ったのは、人生の岐路に立っていた頃だ。

福井県で生まれ育ち、地元の大学を卒業して兵庫県の病院に就職。看護師として4年。だが、森下自身は「看護の仕事を極めたかったわけではないんです」。と率直に語る。安定した仕事を選び、休日はアウトドアに没頭する日々。

転機は、結婚だった。「今後、役職とかを上げて収入を増やしていくには、この環境では難しい」。副業でSNS運用代行、アウトドアのインフルエンサー活動も試したが、思うようには実らなかった。

大学時代の直属の先輩が、当時できたばかりのARIAでナンバーツーを務めていた。その紹介で、代表・宮崎に会った。

「熱くなるものがあった。社長は人を魅了する力がある」。

森下は初対面のその席で、自分から条件を出した。労働条件も一番辛くていい。給料も一番少なくていい。全部教えてください。将来的には自分で会社を運営していきたい。言うなれば、修行としての弟子入りだった。

そんな森下に、宮崎はこう答えた。

「その思いは、こっちもちゃんと受け止める。100%全部伝授するから、ちゃんと受け取ってね」。

会社はまだ立ち上げ3ヶ月目。出世できる保証も、独立できる保証もない。それでも、一緒にやっていこうと迎え入れた。この一言に、森下は全身全霊で応える。

入社は2023年6月、創業4月から数えて3ヶ月目。まさに初期の古参メンバーだ。

営業一本で、業界の常識と戦った1年半

看護師から、営業のプロへの変化

入社当初、森下に与えられたポジションは、営業一本だった。訪問看護事業が超激戦区の大阪で、依頼が勝手に入ってくるわけがない。地域の病院、行政、ケアマネージャー、相談支援事業所。福祉サービス全般に対して、一件ずつ関係を作りに行く。

看護師出身の森下にとって、これは全く新しい世界だった。

「そもそも看護師って、病院の中でも一つの病棟で生活してるんで、社会の仕組みを知らない、お金の流れも知らない。ビジネスマナーも営業マインドも、そもそも自分にはなかった。訪問看護の業界は競合が多いんで、今日3人目の営業ですよ、なんて対応をされることもあった」。

それでも、続けた1年半で、森下は自分の中に確かな手応えを掴んだ。周りの営業メンバーの中で、圧倒的な結果を出す実感。数字がついてくる自信。

「この業界の営業に関しては、だいぶ自信が持てた」。

そして、この時期に森下の中に深く根を張ったのが、代表の教えだった。

「事業が前に進んでるかどうか。数字は嘘をつかない。結果でしか全てを語れない。ファクトベースで物事を見ようねっていうのが、社長の教えの中で一番残ってる」。

惰性で動いてしまう時、なんとなくこれぐらいでいいかと思ってしまう時。3ヶ月振り返って自分の成績、店舗の成績を見れば、答えは出る。感情ではなく、数字で語る。好き嫌いではなく、会社が前に進んでいるかで判断する。この視座が、後に森下を本部長へと押し上げる土台になった。

福岡単身、過去最短の黒字化

オープン1ヶ月前の移住

入社1年半が過ぎた頃、宮崎から福岡支店立ち上げの打診が入った。九州初進出、2024年10月開設。半年前の告知で、森下がプロジェクトリーダーを任された。

「物件選定から、行政の届け出、採用計画まで、全部やらせていただいた。決裁が必要なところだけ社長に確認する。あとは自己流で全部やってみた、って感じです」。

準備期間中、現地に行ったのは物件選びと、スタッフの顔合わせの2回だけ。オープン1ヶ月前に単身移住した森下は、営業と立ち上げを、ほぼ一人で回した。代表が福岡に来たのは、立ち上げ全期間を通して、2回だけだった。

「この結果は、僕の責任でどっちにも転ぶ」。

リターンもある。だがリスクもある。必死だった。結果は明確だった。

過去最短ペースでの黒字化。採用計画と依頼のペースがきれいに噛み合い、約5ヶ月で立ち上げのバタつきが収束。九州初進出の支店は、想定を大きく上回るスピードで軌道に乗った。

そして、この福岡での経験が、森下に代表の視座を初めて実感させた。

「僕はノーリスクでやらせてもらってる。失敗しても、どうにでもなる。でも代表は皆さんの人生を背負って、会社の倒産の危機を迎えながら、これをずっとやってる。なんてチャンスをいただけたんだろうって、心底思いました」。

「この苦労を、代表は今もっとでかい規模でやってるんだ」。

6名の離職から、次のマネジメントへ

結果に必死になりすぎた、若きリーダーの学び

だが、福岡での話は、成功だけでは終わらない。

大阪に帰任した後、福岡支店で6名の同時退職が起きた。数字は伸びていた。採用もうまくいっていた。だが、森下が作った組織の基盤には、まだ足りない部分があった。

「結果に必死になりすぎて、今思えばスタッフにきつく当たっていた時期があった。スタッフさんからしたら、僕の焦りは知らんがなという話。看護業界では、所定の労働時間を働いて対価をもらうという感覚の人が多い中で、結果にコミットしてほしいと必死に伝えた。それが、離職の原因になった」。

森下は、この経験を隠さずに語る。それどころか、自分の課題として今も向き合っている。

「僕が作った組織の質が、まだ働く環境として高いものじゃなかった」。

福岡での経験は、森下に二つのことを教えた。一つは、結果を追う姿勢の重要さ。もう一つは、伝え方と組織の耐性がなければ、結果は続かないということ。マネジメントの経験がない人間が、いきなり支店を任された。その中で得た失敗は、今も生き続けている。

現在、森下は事業本部長として、大阪・兵庫・福岡・神奈川・佐賀の5エリアを管掌する。奈良も開設準備中。各拠点に現場管理者を配置し、本部は横串の支援とオペレーション設計を担う体制へと進化した。

そして、今年の会社の重点課題を、森下はこう定めている。「看護の質を、上げる」。これまでは会社の規模を作ることに集中してきたが、これからは中身の質で勝負する。教育コンテンツの整備、スキル向上の仕組み化。入社後に成長を実感できる環境づくりを、森下自身が主導している。

業界に、風を起こす

透明な人事評価と、医療従事者ファーストの経営思想

【NewGate訪問看護ステーション】が、業界の中で特異な存在である理由は、明確だ。

『笑顔あふれる、自分らしい人生を』というビジョンのもと、医療従事者が『やりがい搾取』から解放される仕組みを作る。これが、代表・宮崎が2022年に会社を立ち上げた原点だ。

「業界にこれをちゃんと組んでるところは、本当に少数だと思っています」。

森下が最も自信を持って語るのが、この人事評価制度だ。医療業界では、ナースコールを何回取ろうと、勉強会や委員会活動を頑張ろうと、給与に反映されないのが当たり前だった。年功序列という壁が高く立ちはだかり、成果が正しく評価されない構造。

その現状に、【NewGate】は答えを出そうとしている。基本給プラス、成果や行動を数字で評価する明文化された人事評価制度。訪問件数や成果に応じたインセンティブ。前職の給与の1.5〜2倍になった看護師やセラピストが、実際に多数存在するという。

そして、この制度は入社前から徹底的に説明される。何をすれば評価が上がるか、何が評価対象なのか。主観や上司の印象ではなく、全て数字とルールで見える化する。『業界にこの制度で風を起こしている』感覚を、森下は日々実感している。

採用にも、その姿勢は反映されている。SNS、SEO、MEO、メディアへの露出。認知の獲得は代表の得意領域だ。同業他社が人材難で応募に困る中、【NewGate】は継続的に応募流入を確保している。3年で100名の看護師・セラピストを採用。この規模のスピードは、業界内でも異例だ。

さらに、AI・ICTの活用も推進中。看護という「頭固い」と言われる業界の中で、業務効率化に率先して取り組む姿勢は、【NewGate】の優位性の一つになっている。

小児といえば、NewGate

西日本を獲る、5〜10年の設計図

会社の5〜10年後を、森下と宮崎は明確に描いている。

『小児といえば、NewGate(ニューゲート)』。ビールといえばアサヒやサッポロ、と同じ想起獲得を、小児訪問看護の領域で作る。0歳の医療的ケア児から、高齢者の看取りまで、どんな依頼も断らない。24時間365日対応。この一貫した姿勢を、西日本全域に広げていく。

会社の年商目標は、短期で15倍から30倍。物理的な出店と、認知獲得の両輪で進める。

そして、事業の横展開も視野に入っている。

「訪問看護だけで救える方って、制度に縛られる分、どうしても限界があるんです。呼吸器がついても旅行に行きたい方、チューブが入っていてもディズニーに行きたい方。そういう自費サービスの展開だったり、成人に移行した時に行き場のない方のための生活介護、日中活動の場、就労支援。障害福祉サービスや医療サービスと訪問看護を連動させた横展開を、必ずやっていきたい」。

地域貢献にも、力を入れる。子ども食堂を定期開催し、地域接点と認知を強化する。看護という枠を超えて、地域の医療・福祉インフラそのものになっていく。それが、会社が向かう先だ。

独立の意思は、もうない

社長への恩返しに、人生を賭けるという選択

入社時の森下は「将来独立したい」と語っていた。だが、3年経った今、森下は迷いなく言い切る。

「独立の意思は、もう全くないです」。

「いかにこのお世話になった会社と社長に恩返ししていくか、というところでやっていきたい。会社を大きくしたいっていうのが、今の全てです」。

この決意の背後にあるのは、代表への深い信頼だ。3年間、裏切られたと感じたことは一度もない。逆に、もらっているものに対して自分が返しきれていない感覚が、日々の原動力になっている。

そして森下は、右腕というポジションを心から愛している。

「別法人とかグループ会社を作れたらいいなという話は代表ともしていますけど、右腕っていうポジション、自分自身すごい好きなんです。この関係性を、ずっとやっていきたい」。

最後に、代表への率直なメッセージを、森下はこう語った。

「いつもありがとうございます。ただ、あんまり弱いところを見せてくれないんですよ。もうちょっと見たい。裸の付き合いが今後もっとできたらな、って思います」。

弱みを見せない代表を、頼りない、とは言わない。逆に、懐が深い、と表現する。3年間の伴走が生んだ、深い信頼関係の言葉だ。

最後に、これから右腕になっていく後輩たちへ、森下はこう語った。

「トップに、遠慮なく頼っていい。抱えているとわからないことも、話せばすぐ解決策が出てくる。それを繰り返すことで、方向性が合っているか、進んでいる先が正しいのかを、随時確認できる。気づいたら全然違う場所に立っている、なんてことにはならないから」。

「トップに、遠慮なく頼っていい」。

だから今日も森下は、大阪の本部からエリア全体を見渡し、マネージャー層と対話し、次の出店計画と業務効率化を組み立てている。福井の看護師が、代表と初対面で頭を下げたあの日から、3年。走り続ける右腕の設計図は、まだ半分も描き終わっていない。

もしいま、あなたが誰かの右腕として、「トップの視座に、いつか追いつけるだろうか」と迷っているなら、森下はこう言うはずだ。

「追いつけないと思うことこそ、走り続ける理由になる」。

編集後記

森下氏を取材して印象に残ったのは、代表・宮崎氏について語る時の言葉の柔らかさだった。3年間、裏切られたと感じたことは一度もない。自分がもらっているものに対して、返しきれていない感覚がある。右腕として社長を見る目に、あれほどの敬意と親しみが同居する関係は、なかなか見られない。

業界に前例のない透明な人事評価、医療従事者ファーストの経営思想、そして3年で100名の採用。【NewGate訪問看護ステーション】が業界に起こしている『風』の背後には、代表と森下氏の3年間の伴走がある。福井の看護師が、大阪の社長に会って弟子入りしたあの日から、この物語は始まっている。