高卒、アニメーター、人形屋。AI企業の創業4人目になった男
特殊ルートの設計者 ―PMが消えた朝に、スキップを却下した男の哲学。
株式会社STAR AI データサイエンティスト 三森 將太
「うちの会社、さすがに高学歴の人たちが多いんですけど、僕だけすっげえ特殊ルート通ってて」
アニメーター、ドール販売、プログラマー、そしてデータサイエンティスト。31歳の三森が辿ってきたキャリアは、AI企業の中ではあきらかに異色だ。
だが、創業3ヶ月後に4人目の社員として参画して以来、三森は会社の中で代えのきかない存在になっている。本記事では、主要クライアントの担当PMが突然消えた朝に『スキップを却下する』と決めた男の哲学と、報連相を信じ抜く右腕の流儀に迫る。
特殊ルートの設計者──アニメーターから人形屋、SEを経てデータサイエンティストへ
三森のキャリアは、肩書きや学歴で説明できる類のものではない。
大阪生まれ。大阪から離れたことは一度もない。高校卒業後、選んだのはアニメーターの専門学院。大阪府の認可を受けていない専門学院だったため、公的な学歴は今も高卒のままだ。
やりたいことしかやりたくない、当時から変わらない一貫した動機。アニメの絵を描く仕事を経験した後、食べていけずに業界を離れ、次は趣味だったドール販売の道へ。60センチ球体関節人形を扱う店舗で、バイトから社員へと働き方を切り替えた。
やりたいこと、やったもん勝ち
座右の銘がそのままキャリアの設計図になっている。だが、ドール販売の現場で三森は、もう一つ大切な感覚を身につけた。
「店長が大の人形好きで、好きだからスタッフが我慢すればいいやみたいな考え方だったんです。みんな好きだから我慢できてたけど、僕はそれだけじゃ我慢できなくて。『ここをこう変えた方が楽じゃないですか』って店長を説得するために、根拠を整理して、未来がこうなるって資料で言えるようにしていた」。
好きを動機にしながら、好きだけでは動かない。論理で店長を動かす経験が、後の三森を作っていく。プログラマーへ転職し、4年。そんなとき、高校の同級生から連絡が入った。久々の食事の席で、プログラミングをやっていることを話すと「できたばかりの会社に今いるんだけど」。と誘われた。「そこまで仲がよかったわけでもない関係だったんですけどね」。運命的な誘い。
「後から社長に聞いたんですけど、根性あるやつって言われてたらしいんです。それで入れてもらえた」。
深夜1時の呼び出しが、ありがたかった──創業4人目の社員として
STAR AIに入って、三森が最初に体験したのは、ベンチャー創業期の濃密な働き方だった。
最初の案件で、フロント面と基本管理を社長が引き受け、三森は作業者としてついた。深夜1時、社長から連絡が入る。「ちょっと確認したいことがあるんですけど、今オフィスにいますか?」「今から行きます」。1時、2時に集合して、朝まで仕事の話をする。そんな夜が、当たり前のようにあった。
驚くべきことに、三森はその働き方を「そういうの、ありがたかったですね」。と振り返る。
「僕は夜型の人間なんで、深夜のやりとりがちょうどよかったんです」。
アニメ・漫画の業界、その後のSEの世界。労働時間が特殊な現場を渡り歩いてきた三森にとって、午前中に頭を回す方が違和感があった。期日を守って成果を出していれば、作業のやり方は問われない。STAR AIの裁量労働のスタイルが、彼の夜型と完璧に噛み合った。
「いまも、メインの仕事時間は夜にずらしています。クライアント対応は日中、自分の集中作業は夜。もう普通の働き方ができないですね」。
プライベートと仕事を、明確に分ける。リアル出社の頻度は低くても、社長とは毎日連絡を取る。それで成果が出るなら、それが自分の働き方。三森は、自分の輪郭を、はっきり線で引いている。
スキップを、却下した──PMが消えた朝、4本の柱を支え直した1ヶ月
入社して1年弱。三森の最初の修羅場が訪れた。
自分を会社に誘ってくれた同級生は、主要クライアントの案件をフロント・総括として束ねていた。いわば実質的なPM。その彼が、突然連絡不能になり、退社した。
「縦割りで案件が回っていたんです。総括しているその人がフロントで、A~Dという4つの案件タスクをそれぞれ別々の担当に振っていて、お客様への報告も基本的にはその人が一人で持っていた。だから、彼がいなくなった瞬間に、案件全体を横で把握している人間がいなくなった」。三森はAにしか携わっていないので、当然全体把握はできていない。
会社は1週間で代替PMを採用した。だが、入って間もない新PMは、クライアントとの相性が合わずに信頼を落とし、ミスで取引先を怒らせてしまう。次の定例会議の空気は重く、社内では『今回の報告はスキップするしかないのではないか』という案が出た。
そのとき、三森は「さすがにそれはないです」。と反対した。
「こちら都合でスキップさせるのは、絶対にない」。
「期日までに、僕が資料を作ります」。責任感のある三森はそう宣言し、短期で資料を仕上げて自ら説明した。報告は新PMに任せつつ、「わからないとなったら、そのまま僕に振ってください。僕が喋るので」と申し送りをした。
そこからの1ヶ月、三森は徹底的に情報を集めた。現在のメンバーから、過去にこの案件に携わって今は別案件にいる元メンバーまで。毎日、一人ひとりに「すみません、当時やってたこと覚えていること、少しでも教えてもらえますか」。と頭を下げて、4本の柱を横断する全情報を自分の中で再構築していった。
結果、三森が新たな総括役に就任。新PMはこの案件から外れ、当時新人だったメンバーが三森のサブとしてステップアップしていく形で、体制は立て直された。
全員でフォローし合える形に作り直した
現在、そのクライアントとの契約は継続し、当初より規模も拡大している。このプロジェクト全体の崩壊を、三森一人の判断が回避した。
報連相を、信じ抜く──アラートを出せない人は、必ずどこかで崩れる
修羅場を超えたあと、三森の中に明確に残った基準がある。
「信頼できる人は、報連相ができる人。これは世間で言われ尽くしていることだけど、本当にそうだと思っています。自分が何をするかを明確に言えて、その時点での懸念を言える人。実際にやった結果も話せる人。これが揃っていれば、進捗の心配もないし、認識ズレも起きない」。
逆に、三森が信頼できないと感じるのは、
しんどいときに、しんどいと言えない人
「この案件しんどいわ、これはできない、ここまでで限界、そういうアラートを出せない人は必ずどこかで崩れる。僕は二回それを経験したから、もう、しんどかったら言ってほしいと、最初に言うようにしています。できないと思ったら、全然言ってくれていいから、って」。
初めての相手だと、なかなか言えないものだ。三森は、「一回やってみて、明日その所感を聞かせてもらってもいい?」と、自分から先に問いを置きにいく。フォローの構造を、関係性の初期に組み込んでおく。
これは、自分のスタイルでもある。お金をもらって働いているのだから、振られた仕事はやる。だが、見合わないとなれば交渉する。改善の兆しも見えなければ、辞める。そう社長にも明確に伝えてある。
「プライベートを侵す仕事は、僕は絶対に許さない。だからこそ、振られた仕事はしっかりやりきる。こんなこと言っときながら、仕事しっかりしてなかったら絶対許されないと思っているので」。
仕事と私生活の線引きを明確にする。そのうえで、振られた仕事には全力を尽くす。これが、三森の労働哲学だ。
僕がやりたいから、やらせてください──ラジオから、展示会から、社内プロダクトの営業へ
いま、三森が向き合っている自分発の挑戦は、社内プロダクト【AeyanMask】の外販だ。
生成AIに機密情報を入力する際の個人情報マスキングツール。STAR AIが社内開発し、展示会出展もしているプロダクトだ。バージョンアップで対応範囲が広がってきたタイミングで、三森は社長に直談判した。
「絶対これ売れるんですから、やりましょうよって。場を設けてもらって、今度やることになっています」。
既に大きな2案件を抱える、社内基準では合計1.6人分の働きが常態化している現役データサイエンティストが、新たに営業活動に手を挙げた。理由はシンプルだ。
「僕がやりたいから、それが一番なんですよね」。
社内の課題感も、三森はクリアに見えている。新規受注がほぼ社長一人の人脈に依存している現状。技術者集団であるがゆえに、営業機能が育っていないこと。データサイエンス案件1件分よりも、プロダクトを1台売る方が、会社にとっては大きな価値になる場面が来ているはず。それを見えるようにするために、まず三森が動く。
そして、三森のもう一つの活動が、ラジオ番組『mimoriのスゴイ人に聞くコレが好き』のMCだ。経営者やクリエイターをゲストに招き、技術と趣味の交差点を掘り下げる対話番組。視認性の高い装い、名刺の写真、独特のスタイル。これらを意図的に組み合わせて、三森は『STAR AIの三森』としての認知を作ってきた。
「ラジオきっかけで、ちょっと大きめの会社の人から声がかかったり。社長があるイベントで僕の格好を覚えていてくれた人とつながって、お仕事につながったりもしている。ビジネスに繋がっている感じはありますね」。
会社のリード獲得チャネルを、三森は自分にしかできない形で増やしている。データサイエンティストの肩書きを超えて、ブランディングの設計者でもある。
肩書きは、似合うときにつける──5年後、25人規模を支えるナンバーツーへ
STAR AIには、CAIO(Chief AI Officer)という肩書きをつけているメンバーもいる。だが、三森は今、肩書きをつけていない。
「社長からも話があったこともあるんですけど、ちょっと気恥ずかしくて。まだ俺、似合ってないなと思っちゃって。しかるべきタイミングで、ありがたく受けさせていただきます、と」。
身の丈を超えた装飾を、好まない。だが、5年後の自分の立ち位置については、明確に考えている。
「5年経ったら25〜30人規模にはなっていそう。さすがに自分も上に立っているとは思います。10人規模だから横並びでいいけど、4年後に入ってくる人と横並びは、さすがにちょっと、と思っちゃいますからね」。
経営層に行きたい理由も、明快だ。給料が上がるから。ふざけているわけではない。プライベートと仕事のバランスが取れる範囲で、納得できる報酬がもらえる環境にいたい。それが、自分の働き方を持続可能にする条件だ。
最後に、これから右腕になっていく方たちへ、三森はこう語った。
「その立ち位置にいる、なっている時点で、社長が求めている動きがある程度できているはず。だから、抜擢されたことで急に不安になって、自分を曲げる必要はない。今までやってきたことが、社長の支えになっているからこそ、その立ち位置に上がっているわけで」。
不安で、自分を曲げないでほしい
だから今日も三森は、夜になればデータと向き合い、深夜に社長と次の手を考え、ラジオの収録に出かける。いつもの緑のスーツを着て、名刺の写真と同じ顔で、初対面の経営者に挨拶する。データサイエンティストという肩書きでは収まりきらない、それでも本人が一番しっくり来ている肩書きで。
もしいま、あなたが、「自分はキャリアが特殊すぎて、ここにいていいのかわからない」と感じているなら、三森はこう言うはずだ。
特殊ルートだからこそ、つくれる動線、できる動きがある
社長談
ピンチのとき、苦しいときこそ、その人の芯があらわれてきます。対岸の火事を見ているかのように会社や相手のせいにして評論をするような人もいれば、三森のように、自分から火事の中に飛び込んでなんとかしようと奮闘してくれる人もいます。決して品行方正なタイプではないですが、ここぞというときに身をなげて、会社のため、クライアントのため、チームメンバのために尽力できるからこそ、三森は経営陣からも、チームメンバからも、信頼を得ています。また、三森の場合は、会社から美味しい仕事を与えてもらえる・成長させてもらえる、という受け身の姿勢ではなく、自分の強みを理解して自ら仕掛けていくような動きも最高ですね。火事場に飛び込んだり、自ら仕掛けることで、弊社メンバーの中でも成長率はトップレベルです。代えのきかない大事な右腕です。
編集後記
「やりたいことしかやりたくない」という、何の留保もない一言をさらっと言う姿に最初驚いた。アニメーターから人形屋、プログラマーからデータサイエンティスト、そしてラジオパーソナリティ。このキャリアの転がり方を、誰もが許されているわけではない。三森氏の場合は、いつも自分が楽しいことをやるという指針があり、その先で誰の役に立てるかを組み立てている。
プロフィール
大阪府生まれ、大阪府在住の31歳。高校卒業後、アニメーター専門学院を経てアニメーターとして勤務。その後、ドール販売の店舗で社員を経験し、プログラマーとして約4年。2024年、株式会社STAR AI創業の約3ヶ月後に4人目の社員として参画し、データサイエンティストに。主要クライアント案件の総括フロントを担当しながら、大手保険会社向けのAI開発・運用、大手携帯事業会社向けキャンペーン効果検証など複数案件を兼務。社内プロダクト【AeyanMask】の展示会出展・外販活動も主導している。個人活動として、ラジオ・YouTube番組『mimoriのスゴイ人に聞くコレが好き』のパーソナリティを務める。座右の銘は『やりたいこと、やったもん勝ち』。
会社概要
関連記事